未分類

第10話「命を繋ぐ」

坑道の最奥――瘴気の溜まった空間にて、焔たちは不意打ちを受けた。

咆哮と共に姿を現したのは、金属質の外殻を持つ魔物“蝕鋼の主”。
全身が腐蝕鋼でできており、武器を弾き、触れたものを腐らせる。

「下がれっ!」

タンクが咄嗟に皆をかばい、敵の一撃を盾で受け止める。

――ドンッ!!

盾は砕け、タンクは吹き飛ばされた。

「くそっ……重てぇ……!」

剣士とアーチャーが前に出ようとするが、攻撃が通らない。
砕けた盾と、戦闘不能寸前のタンク。
そして、その横に落ちていたのは――折れた剣だった。

「……待て」

焔が、静かに一歩踏み出す。

その手には、今まで一度も使ってこなかった神槌があった。

煤のような黒い槌。表面に浮かぶ紋様が、まるで“影”のように蠢いている。

――墨槌。

「お前、ほんまにこれを使うんか……?」

焔は小さく呟くように問いかける。
神槌からの返答はない。ただ、重みと共に、深い“沈黙”が返ってくる。

「……せやな。ここで使わんで、いつ使うっちゅうねん」

焔は槌を握り直し、折れた剣と、気を失ったタンクの隣に膝をついた。

「まだや。こいつの“命の灯”は、消えとらへん」

炭も火床もない空間で、焔は剣の断面を手で撫でる。

“魂の残響”が、微かに響いた。

「打てば、繋がる……芯も、命も……」

墨槌を構え、静かに振り下ろす。

――カン。

一打。

工房の音とは違う、深く、低い響き。
まるで魂の底に届くような、鈍く柔らかな音。

「数打槌(かずうちづち)や。
 ウチの中でも、これは特別や。魂と素材を、ゆっくり繋ぎ直す槌や」

カン……カン……カン……

叩くたびに、砕けた剣の断面が滑らかに整っていく。
黒い筋がゆっくりと広がり、折れた境界が“影”に飲まれるように、再接合されていく。

「芯はまだ、生きとる。呼んだら、応える。
 武器が、それを持ってた者の命に――応えるんや」

仲間たちは動けずに、ただ見守る。

誰もが“打つ”という行為に、祈りのような意味を感じていた。

数打目のあと、焔はふっと息を吐いて、槌を下ろす。

剣が――形を取り戻した。

「……ほれ、目ぇ覚ませや。相棒、待っとるで」

その声に応えるように、タンクがゆっくりとまぶたを開く。

「……う、あ……焔……?」

「おかえり。ウチら、まだ仕事中やで?」

タンクが、ぼやけた視界の中で、自分の剣を見る。

――ひびひとつない、けれど黒い筋が一本だけ走る刃。

「……生きてる。こいつ……まだ、戦える……」

焔はにやりと笑った。

「ウチらが繋いだんや。どっちも、まだ終わらせへんで」

その日、誰もが初めて見た。

焔が“ただの鍛冶師”ではなく――“命を繋ぐ職人”であることを。

-未分類