坑道の最奥――瘴気の溜まった空間にて、焔たちは不意打ちを受けた。
咆哮と共に姿を現したのは、金属質の外殻を持つ魔物“蝕鋼の主”。
全身が腐蝕鋼でできており、武器を弾き、触れたものを腐らせる。
「下がれっ!」
タンクが咄嗟に皆をかばい、敵の一撃を盾で受け止める。
――ドンッ!!
盾は砕け、タンクは吹き飛ばされた。
「くそっ……重てぇ……!」
剣士とアーチャーが前に出ようとするが、攻撃が通らない。
砕けた盾と、戦闘不能寸前のタンク。
そして、その横に落ちていたのは――折れた剣だった。
「……待て」
焔が、静かに一歩踏み出す。
その手には、今まで一度も使ってこなかった神槌があった。
煤のような黒い槌。表面に浮かぶ紋様が、まるで“影”のように蠢いている。
――墨槌。
「お前、ほんまにこれを使うんか……?」
焔は小さく呟くように問いかける。
神槌からの返答はない。ただ、重みと共に、深い“沈黙”が返ってくる。
「……せやな。ここで使わんで、いつ使うっちゅうねん」
焔は槌を握り直し、折れた剣と、気を失ったタンクの隣に膝をついた。
「まだや。こいつの“命の灯”は、消えとらへん」
炭も火床もない空間で、焔は剣の断面を手で撫でる。
“魂の残響”が、微かに響いた。
「打てば、繋がる……芯も、命も……」
墨槌を構え、静かに振り下ろす。
――カン。
一打。
工房の音とは違う、深く、低い響き。
まるで魂の底に届くような、鈍く柔らかな音。
「数打槌(かずうちづち)や。
ウチの中でも、これは特別や。魂と素材を、ゆっくり繋ぎ直す槌や」
カン……カン……カン……
叩くたびに、砕けた剣の断面が滑らかに整っていく。
黒い筋がゆっくりと広がり、折れた境界が“影”に飲まれるように、再接合されていく。
「芯はまだ、生きとる。呼んだら、応える。
武器が、それを持ってた者の命に――応えるんや」
仲間たちは動けずに、ただ見守る。
誰もが“打つ”という行為に、祈りのような意味を感じていた。
数打目のあと、焔はふっと息を吐いて、槌を下ろす。
剣が――形を取り戻した。
「……ほれ、目ぇ覚ませや。相棒、待っとるで」
その声に応えるように、タンクがゆっくりとまぶたを開く。
「……う、あ……焔……?」
「おかえり。ウチら、まだ仕事中やで?」
タンクが、ぼやけた視界の中で、自分の剣を見る。
――ひびひとつない、けれど黒い筋が一本だけ走る刃。
「……生きてる。こいつ……まだ、戦える……」
焔はにやりと笑った。
「ウチらが繋いだんや。どっちも、まだ終わらせへんで」
*
その日、誰もが初めて見た。
焔が“ただの鍛冶師”ではなく――“命を繋ぐ職人”であることを。