敵の群れを切り崩しながらも、戦況は次第に乱れ始めていた。
体力の消耗、魔力の枯渇、装備の磨耗。どれもが限界に近い。
焔は一歩退き、神槌――六本すべてを前に並べる。
それぞれの槌が、微かに光を帯びて脈動している。
まるで、打たれる瞬間を待つ鼓動のように。
焔は小さく息を吐き、工房での所作と同じように槌を構えた。
「……ほな、響かせたるかいな。ウチらのリズムを」
最初に振るわれたのは《響槌》。
軽やかな金属音が空気を裂き、パーティの耳を打つ。
チィィィン──!
直後、アーチャーの身体が軽くなる。
呼吸が合った。視界が冴えた。仲間の動きが手に取るように分かる。
「今の……何だ?」
「脳に……響いた……?」
続いて《嵐槌》が鳴る。
カン、カン、カンッ!
連打される槌音が、戦場にテンポを与える。
全員の動きが自然に早まり、攻撃と防御のリズムが合っていく。
「動きやすい……? いや、違う。スキルの回転が早い……!」
《蛍槌》の一撃は、タンクの背を叩いた。
ゴンッ!
盾に重さはある。だが、構えがブレない。
踏ん張りが利く。前に出られる。
「姿勢が崩れない……!?」
《墨槌》の一振りで、アーチャーの背の影が揺れ、矢筒の中身が再装填された。
ロッドも浮かぶ。影が道具を“取り出す”。
「武器が……勝手に……」
《涼槌》がヒーラーの足元に触れ、澄んだ音が響く。
シィン……ッ
それだけで、ヒーラーの顔色が明るくなる。
消耗した精神が、一時的に冷やされ、集中力を取り戻す。
そして最後に《千王槌》。
ズドォン!!
その一撃は、まるで戦場全体の空気を入れ替えるような重低音。
敵の動きが、一瞬止まる。
「……デバフが、消えた……?」
焔は六本の神槌を交互に振るい、戦場に音の律動を刻む。
その音はただの鍛冶ではない。誰もが、無意識にそのテンポに従っていた。
「なんだこれは……鼓動だ。まるで……戦場の心臓みたいだ……!」
六つの槌が交互に打たれ、その音が味方の力を引き出し、
敵の勢いを削ぎ、仲間の士気を押し上げる。
そして誰かが呟いた。
「──鍛冶師が……戦場の指揮を執っている……」
焔は一言だけ、静かに笑って呟く。
「うちらはな、叩くんが仕事や。それが剣でも、心でも、地面でもやな」