推敲前
クエストも終盤。標的の群れをようやく削り切ったところで、嫌な音が響いた。
「──ッ、クソッ!」
タンクの叫びと同時に、盾が弾かれ、地面に転がった。
見ると、重厚な盾の表面にヒビが走り、縁が削れている。
相手は、予想外の強化個体。魔力を帯びた衝撃で、盾の芯ごと歪んでいた。
「ちょっと待って! ヒール入れる──っ……!」
ヒーラーが杖を構えたが、肩で息をしながら首を振る。
「……ごめん。もう、MPない……」
空気が一瞬、止まる。
焔は何も言わず、静かに歩み出た。
神槌──千王槌を手に、ゆっくり前線へと歩いていく。
「おい……お前、まさか行くのか!?」
アーチャーが声を張る。
けど焔は、ちらりと目だけ向けて、静かに応えた。
「任されとるんは、“仕上げたもんを守ること”や。ウチの仕事やろ」
そう言って、焔は倒れた盾を拾い上げ、指先でヒビをなぞる。
「……芯、折れてへん。いける」
次の瞬間、焔の足元の影がふわりと揺れ、槌が鈍く光る。
ガァンッ!
ひと振り──衝撃が盾に染み込み、ヒビが音もなく“解けて”いく。
「なっ……直った!? その場で……?」
アーチャーが驚きの声を上げる横で、タンクが目を見張る。
焔は修理を終えた盾を、ひょいとタンクに差し出した。
「ほい、元通り。それどころか、ちょっと強なっとる。今度は吹き飛ばされへんはずや」
「……お前、本当に鍛冶師なのか?」
タンクが苦笑まじりに受け取り、盾を構え直す。
その横で、神槌がわずかに脈動する。
──ドン。
地面に広がる波紋のような衝撃が、仲間たちに届く。
その瞬間、全員の身体が軽くなった。
「今のは……何? 体が、動きやすくなった気がする……!」
ヒーラーが驚いたように手を開く。
その魔力の流れさえも、さっきより滑らかに感じる。
「千王槌の“限界打破”や。状態異常やデバフを、全部吹き飛ばす効果がある。
……戦場やと、これくらいせな間に合わへん」
そう言って、焔は神槌を肩に担ぎなおし、淡々と仲間に目を向ける。
「──もう一波くる。行くで」
その背中は、鍛冶師でありながら、戦場の前線を歩く者のものやった。